top of page
執筆者の写真おいまつ÷のぞむ

映画『翔んで埼玉』

翔んで埼玉』は気軽に楽しめる映画


くだらなくて、馬鹿げていて

気分転換に ちょうどいい作品です


散々 笑わせてもらいました



けれども

冷静になって考え始めると…

笑えなくなります


これは なかなかの問題作かもしれません



無粋だとは思いつつも

データをあげて

少し「批評」してみたいと思います


まず

この映画の中で

散々 ディスられている埼玉県ですが

都道府県 人口ランキングでは

堂々の5位です

(もちろん6位は 千葉県です)


昼間人口は かなり減るとはいえ

東京都、神奈川県、大阪府、愛知県の次に

来るのが 埼玉県なのです!



合わせて さいたま市の人口を見てみると

こちらは 全国 9位


関東圏、関西圏を除けば

さいたま市より人口が多いのは

札幌市と福岡市だけなのです

(ちなみに 私の住んでいた仙台市も 堺市も さいたま市には 及びません)



もちろん 人口だけで

その町の「都会指数」を測ることはできません


しかし

これほどの「大都市」を

田舎扱いできる 都心の感覚は

地方の現実と

かなり隔たりがあるように思います


日本人の実に 4分の1以上が

東京、神奈川、埼玉、千葉に住んでいますので

そのズレに気づく機会は 少ないのかもしれませんが

この辺りが、東京圏と地方の関係に

大きな影響を与えているのではないでしょうか?



この首都圏と地方の関係を考えるにあたって

非常に参考になるのが

映画の終盤に語られている以下の台詞です

(ネタバレです! ごめんなさい!)


現在、埼玉は言わずと知れたショッピングモール天国。何もないと揶揄され続けてきた埼玉県だが、実は特化したものがないだけであり、全てのものがほどほどに満たされているという魅力に気づき始めた。そんな住み心地の良い埼玉の町並みは、今や全国で広がりを見せており、埼玉から発祥したいくつもの店が、全国に点在している。

作中では

冗談のように 語られていますが

実は これは 日本の一つの側面を捉えたリアルな言葉なのです



青森県生まれの学者 宇野常寛さんは

希望論』という本の中で次のように述べています


北海道には親の転勤と進学で何年か住んでいただだけです。個人的なことを話すと、僕は父親が転勤や長期出張の多い人だったので、あんまりひとつの街に長く住んだ経験がないんです。大学から京都に七年間住んだのが最長で、あとはどこも五年程度で引っ越している。だから北海道にはじめて住んだときはカルチャーショックが大きかった。そこはまさに三浦さんの言う「ファスト風土」で、郊外型の大型店舗がロードサイドにひたすら並んでいるという、全国のどの郊外とも入れ替え可能な風景が広がっている。北海道は言ってみれば最初からすべてが「郊外」なんです。本州のような、土着的な街並みというのは函館の一部にしかなくて、ほかは全部「ファスト風土」なんですよね。僕ははじめて北海道にきたときに、未来都市に来たかのような錯覚すら覚えた。それまで住んでいた長崎の郊外は、まだまだ日本的村落の匂いがして、街並みも貧乏くさいところがたくさん残っていたし、同じクラスに大農家とその従業員の子どもが通っていて、その二人のあいだには封建的な空気が(笑)まだ漂っていた。そういった「匂い」が、北海道に来たとたんに全部漂白されていて、愕然とした。

p.122より


「入れ替え可能な風景」「ファスト風土」「漂白」「愕然」と

かなり 過激な表現が使われていますが

この短い引用からも

全国への「ショッピングモール」の移植

つまり「住み心地の良い埼玉の町並み」の普及(「埼玉化」)が

ある程度、現実のものだということが わかります



そして

少し 論理の飛躍に思えるかもしれませんが

この地方の郊外の均質化と

今回の 新型コロナウィルスを巡る問題は

無関係ではありません


というのも

首都圏中心の経済システムと

平板化された生活様式が

感染予防の壁となっているからです


感染拡大のリスクがあるのを承知しつつ

「時期尚早」と批判されながらも

「Go to キャンペーン」が推し進められて来た背景には

この社会構造の課題があります


全国の地方都市が

「埼玉」と同じような暮らしを続けていくためには

どうしても

人間と外貨を獲得しなければなりません

そして

それらを獲得するための主な手段が

観光客誘致「Go to」なのです


つまり

東京からの「通行手形」を得るかどうかは

多くの地域にとって

文字通り 生き死に関わる問題なのです


そのようなことを念頭に置きながら 全体を 見直すと

映画の様々な要素が

社会の歪みのメタファーに思えてきます


魔夜峰央先生には

きっとそんな意図はないのでしょうが…


考えれば考えるほど

爽快感が

どこかに 飛んでいってしまいますね



【関連記事】

閲覧数:18回0件のコメント

最新記事

すべて表示

ルカの福音書12:19

そして、自分のたましいにこう言おう。 「わがたましいよ、これから先何年分もいっぱい物がためられた。さあ休め。食べて、飲んで、楽しめ。」 たとえ話の細かいところを あまり掘らない方が良いのかもしれませんが 「これから先何年分も」ためているクリスチャンって 現代の 日本には...

Comments


bottom of page