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執筆者の写真おいまつ÷のぞむ

ラッパ? 角笛?

初めて知る 動物の英語の名前は

人それぞれに 違うと思いますが

それが何であったかを

鮮明に記憶している人は 決して多くないでしょう


私もそうです


けれども

1980年代に 大阪で生まれ育ちましたから

かなり早い段階で 覚えた単語であることは 間違いありません


buffalo=牛

と 頭の中で繋げていました




しかし

小学校の高学年になって

小さな混乱が生じました


NBAブーム、ジョーダンブームに乗って

シカゴのクラブチームの存在を知ったのですが

その名前がbullsだったからです


 あれ?

 牛ってバッファローじゃないの?

 いや

 そういえば カウってのもあるな…

 うん?

 どういうこと?

と 頭が こんがらがりました


その後

中学に入り、ox、cattleなど

牛に関する さらにたくさんの言葉に出会うわけなのですが

その時は そんなことも知らずに

不思議に思っていました




こういう困惑は

外国語を学ぶ上で避けられないものです


言葉というものは

一対一で対応するように出来ていませんから

ニュアンスが違ったり

指し示す範囲が ずれていたりします




それは

原語で聖書に触れる場合にも

突き当たる課題です




例えば

新約聖書で「ラッパ」と訳されているのは

σάλπιγξ salpigx(G4536)という言葉です

(動詞形のσαλπίζω G4537, 「吹き手」を指す σαλπιστής G4538という語もありますが、ここではひとまず置いておきます)




この語は

新約聖書では11回しか用いられていませんが

ギリシヤ語訳の旧約聖書では

100回近く 使われています


その最初の用例は

出エジプト記19章です


しかし

日本語とヘブライ語の聖書ですと

「ラッパ」は民数記10章で 初めて用いられます


「銀のラッパ(H2689)を二本作りなさい。それを打ち物作りとしなさい。あなたはそれを用いて会衆を召し出したり、宿営を出発させたりしなければならない。...祭司であるアロンの子らがラッパ(H2689)を吹かなければならない。これはあなたがたにとって、代々にわたる永遠の掟である。また、あなたがたの地で、自分たちを襲う侵略者との戦いに出るときには、ラッパ(H2689)を短く大きく吹き鳴らす。あなたがたが、自分たちの神、の前に覚えられ、敵から救われるためである。また、あなたがたの喜びの日、あなたがたの例祭と新月の日に、自分たちの全焼のささげ物と交わりのいけにえの上にラッパ(H2689)を吹き鳴らすなら、あなたがたは自分たちの神の前に覚えられる。わたしはあなたがたの神、である。」

民数記10:2, 10:8-10


それでは

出エジプト記では

何の訳語として 使われているのでしょうか?


「...その人に手を触れてはならない。その人は必ず石で打ち殺されるか、矢で殺されなければならない。獣でも人でも、生かしておいてはならない。』雄羊の角が長く鳴り響くときは、彼らは山に登ることができる。」...
三日目の朝、雷鳴と稲妻と厚い雲が山の上にあって、角笛の音が非常に高く鳴り響いたので、宿営の中の民はみな震え上がった。...角笛の音がいよいよ高くなる中、モーセは語り、神は声を出して彼に答えられた。

出エジプト記19:13, 19:16, 19:19


パッと見てすぐには気づかないかもしれませんが

「雄羊の角」、「角笛」と訳語とされているのがσάλπιγξなのです


実は

σάλπιγξは

"trumpets" と訳されるחֲצֹצְרָה chatsotsĕrah(H2689), תָּקוֹעַ taqowa`(H8619)だけでなく

通常「角笛」と訳されるשׁוֹפָר showphar(H7782), יוֹבֵלyowbel(H3104)の訳語としても用いられているのです


つまり

σάλπιγξはラッパだけでなく、強く息を吹き出す楽器全般を指すものなのです


牛>buffalo, ox, cow

だとするならば

σάλπιγξ> יוֹבֵל ,שׁוֹפָר,תָּקוֹעַ ,חֲצֹצְרָה だということでしょう




逆に言えば

新約聖書で用いられる「ラッパ」は

旧約聖書の「ラッパ」だけでなく 「角笛」の意味合いをも

引き継ぐものだと考えられます




このように語と語との関係に注意を払うことは

言葉の意味を汲み取り

著者の意図を探るためには

大切なことです


面倒で 骨の折れるものですが

その地道な営みによって得られる発見も

あるいは あるかも…しれません…

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