伝道者・コヘレトは
厭世主義者、虚無主義者と見なされることが
少なくなく
伝道者の書は
対立する複数の声が
響き合う書だと
しばしば言われてきました
『コヘレトの言葉を読もう』は
そのような既成概念を
打ち砕いてくれる良書です
コヘレトを「今を生きよ」と語る現実主義者として描き
統一的な視点で 読み解いています
ただ
その切り口は
かなり斬新なものです
聖書で聖書を解釈するという原則にのっとり
ダニエル書と比較しつつ
解釈しているのですが
両書を調和的にではなく
対立的にとらえています
一つの仮説としては
とても とても 面白いですが
個人的には
あまり馴染みませんでした
そもそも
コヘレトの言葉を
捕囚後に位置付ける必然性が見出せないというのもあります
しかし
それ以上に
ダニエル書や黙示文学の読み方に
違和感を覚えました
この本では
コヘレトが
彼岸的に物事を捉える黙示的世界観を
克服しようとしていたと主張されています
たしかに
ダニエル書では
未来預言、終末思想が語られます
しかし
それは あくまで神の主権を示すためであって
未来のタイムスケジュールを
示すためではないはずです
将来と彼岸を見据えつつ
今を誠実に生きるよう訴えることが
ダニエルの意図だったと
私は理解しています
終末論と堕落論
そのどちらに強調点を置くかの違いは
あるでしょう
けれども
正しい者が不条理な苦難を味わうことなど
ダニエル書とコヘレトの言葉には
共通のテーマを見出すことも 出来るように思います
とはいっても
このような比較研究は
興味深いものだと思います
例えば
エステル記には
「神」という言葉は
一度も用いられず
あくまで人間の視点から
出来事が物語られます
「彼岸」について多くを語らないコヘレトの言葉を
このエステル記との類比で 読むならば
新たな発見があるかもしれません
そんな着想を得た刺激的な本でした
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